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歯周病と聞くと、人間が発症する疾患というイメージを抱く方も多いかと思います。
もちろん人間の多くが歯周病に苦しんでいるということは事実なのですが、他の動物については、歯周病は発症しないのでしょうか?
今回は、歯周病の豆知識として、野生動物の歯周病に関することを解説します。
野生動物における歯周病は、私たちが想像する以上に一般的です。
“麻布大学いのちの博物館”に収蔵されている動物の頭蓋骨調査では、肉食動物から草食動物まで幅広い種で歯周病の痕跡が確認されています。
例えば、野生のライオンやトラなどの食肉目では、獲物の骨を噛み砕く際の破折から炎症が広がるケースが多く見られます。
またニホンカモシカやシカなどの草食動物でも、加齢に伴い歯茎が後退し、歯槽骨が溶ける重度の歯周病が報告されています。
ペットと異なり、野生下では適切な歯科治療を受ける機会がないため、一度発症すると自然治癒は難しく、慢性的な炎症が進行し続けます。
近年の研究では、動物園や水族館で飼育されている個体も含め、種を越えた“健口(けんこう)”の重要性が提唱されています。
野生動物が歯周病になる主な要因は、食事内容の変化や外傷、加齢です。
本来の食性から外れたやわらかい餌を摂取するようになると、咀嚼による自浄作用が働かず、プラークが蓄積しやすくなります。
特に人里近くに生息する個体が人間の残飯や農作物を食べることで、炭水化物の摂取量が増え、口腔内細菌のバランスが崩れることが指摘されています。
また激しい狩りや縄張り争いによる、歯の破折も大きな要因です。
歯が折れて歯髄が露出すると、そこから細菌が感染して根尖周囲炎や重度の歯周病へと発展します。
野生下ではブラッシングの習慣がないため、唾液の性質や咀嚼による物理的な清掃が口腔環境を維持する唯一の手段です。
しかし環境変化やストレスによって免疫力が低下すると、常在菌である歯周病菌が異常増殖し、歯茎や骨を破壊し始めます。
歯周病は野生動物にとって単なる口内のトラブルではなく、死に直結する深刻な問題です。
歯周病による痛みは採食行動を困難にし、栄養不足から衰弱を引き起こします。
特に狩りを行う肉食動物にとって、牙の欠損や痛みは捕食成功率を劇的に低下させ、餓死の原因となります。
また口腔内の炎症から細菌が血流に乗り、心臓や肝臓、腎臓などの主要臓器に感染を広げる全身疾患を誘発することもわかってきました。
これにより寿命が縮まるだけでなく、繁殖能力が低下し、個体群の維持にも悪影響を及ぼします。
歯周病は多くの人間が苦しめられている疾患ですが、野生動物もまた同じように、歯周病による影響を受けています。
むしろ適切なブラッシングや治療ができない分、野生動物の方が圧倒的に発症や重症化のリスクは高いと言えます。
また歯周病は生態系にまで影響することがあり、私たち人間もおそろしい疾患としての認識を強く持っておく必要があります。